
この頃、
自分は
彼女に
ガンの
治療を
施すことを
もう
考えては
いなかった
では彼女の治癒を
諦めていたのかと言えば
決してそうではなく
今は弱っているけれど
こんなに食欲があるのだから
きっと良くなる
今までの子たちも
食欲さえあれば必ず回復した
だからその力を信じよう
いつもそう思っていた
けれど、今ぐったりとして
腕の中でただ首の傷口から
膿みを流し続ける彼女を見て
これはもう、かなり危ない状態だ
そう感じた
直っているはずの傷が
塞がらずに彼女の体の中に
蔓延っている癌によって
いつまでも治癒できずにいるのを
目の当たりにしたからだ

抱っこ散歩の最中の異変に仰天
そしてすぐにいつもの
獣医に連絡を取ったのだが
親父はさらっと
「傷が開いただけなら消毒して
明日連れてこい」
というだけだった

拭っても拭っても膿みと出血が膿みと出血が続く
数時間経っても膿みは出続け
結局のところ
それは数日続くことになった
翌日、獣医に行っても
縫合をするなどはせず
ひたすらに傷口を絞って
消毒するように言われた
そして抗生剤の注射打った
内心、
「抗生剤を打つと免疫力が落ちる・・」
と暗澹たる思いだったが
他に方法はなかった
傷が悪化して感染が起これば
それこそ体調が落ちる
できるだけ食欲が湧くように
食べられるようにしよう
そう思った
そして、その気持ちに応えるように
彼女は獣医から戻って
面白いくらい食べ続けた
住んでいるコンドミニアムの中の
カフェに連れて行って
人間用の食事をほとんど味付けなしで
作ってもらったその肉や卵を
それこそ貪るように食べたのだった
このまま体調が上がるはず
こんなに食欲があるんだもの
傷口から膿みが出たおかげで
彼女の首の腫瘍はすっかり
無くなってしまったかの様に見えた
きっと今から良くなる
ただそう思っていた
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